4884710665.01._SCMZZZZZZZ_.jpg日本人が知らない「二つのアメリカ」の世界戦略 / 深田 匠
第四章 米国の国際戦略
「アメリカは」二つ存在している! P.262-293

 アメリカの国際戦略を解析していく上で、まず共和党と民主党はまったく対照的であることを理解してもらう必要がある。共和党も民主党もひとまとめにして『アメリカ』という単位で考えてしまう視点は、日本人が陥りがちな誤りである。「共和党でも民主党でもアメリカはそんなにかわらないだろう」と思っている人も多いようだが、この両党は対外戦略も内政面も大きく異なった思想信条を基盤としており、当然ながら個々の議員によって個人差は当然あるものの党全体のカラーとしては正反対なのだ。

 かつてパキスタンのアユブ・カーン大統領が「アメリカという国とつきあうのは、ガンジス川とつきあうようなものだ」と述べたことがある。ガンジス川は平均して四年に一度、大洪水を起こしてそれまで築いたものを全て押し流してしまう。アメリカも四年に一度の大統領選挙があり、その新政権が共和党か民主党かによって全く違った国際戦略に変わってしまうという意味である。

 未来学の始祖と言われるK・ボールディング博士は、名著『ザ・ダメージ』の中でこの二大政党を「共和党は象、民主党はロバ」として、「共和党は伝統を重んじ、落ち着きがあり、高貴な気位を持つ、厳格な頑固者」「民主党は成り上がり的で、敏感にして小利口だが、自分のことを何も分かっていない陽気な間抜け」と評している。(ちなみにこの象とロバは両党がそれぞれ党のシンボルマークに採用している。)すなわち共和党と民主党とは、陰と陽、リアリズムとポピュリズム、武の誇りと商の利、規律と享楽をそれぞれ代表する政党なのである。それでは両党の支持層・政治的信条・対日戦略などの相違を具体的に比較検証していこう。

 まず民主党のカラーについて言えば、労働運動やマイノリティの集票力が大きく、嫌日親中で容共主義的・国際主義的で国連へのスタンスも好意的である。内政面では、中絶完全自由化・死刑廃止・不法移民容認・労組重視・結婚制度反対・同性愛容認・宗教多様化容認などが特徴であり、いわゆる「大きな政府」志向のリベラル思想の政党だ。

 一方、共和党は伝統的保守層とキリスト教原理主義勢力(三百万人を擁する「クリスチャン・コアリション」を筆頭とする福音派)の集票に支えられ、伝統的に親日反中であり、反共産主義の思想が強い政党である。力による秩序と強力な同盟関係による安全保障策が基本であり、国益重視の反国際主義で、国連に対しては反感を持っている。内政面では、中絶禁止・死刑制度存続・家族制度重視・不法移民反対・銃規制反対などが特徴で、いわゆる「小さな政府」志向の伝統的保守思想の政党である。

 なおブッシュ大統領個人について言えば、ブッシュの生まれ育ったテキサスは今でも「古き良きアメリカ」が残る州であり、ブッシュは家族制度に代表される伝統と規律を重んじ、リベラルの唱えるニュー・カルチャーを否定し、「勤勉に働き、家族と友人を大切にし、約束は必ず守り、国家のために尽くせ」という価値観を確固として持つ人物である。ブッシュのこの信条は同じく共和党大統領であったレーガンの信条と軸を同じくしている。レーガンは荒廃した道徳の復興を掲げてベネット教育長官に道徳教本を編集させ、それは全米三千部のベストセラーになったが、同教本が説く徳目十項目の内九項目までが日本の教育勅語や戦前の道徳教本と同一の内容を米国流に置き換えたものである。このようにブッシュやレーガンに代表される共和党保守派の価値観こそ、我々日本の伝統的保守陣営が共有できるものではないだろうか。

 ところでこれは日本人はあまり知らない様子だが、米国の南北戦争の際に南部側で奴隷制を支持していたのが実は民主党であり、一方北部側で奴隷解放を唱えていたのが共和党である。奴隷解放宣言を行ったA・リンカーンは共和党の最初の大統領だ。南北戦争で敗北した民主党はその勢力挽回のために、新しい移民をターゲットにして「労働者や貧困の党」をアピールし移民船の到着する港で党員勧誘を行った。映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』には、この十九世紀後期の民主党による勧誘の様子が描かれている。つまり共和党は奴隷制に反対すると同時に「白人も黒人も平等であり、黒人優遇は白人の逆差別になる」と一過して正論を主張してきたわけだが、元々は奴隷制度支持の民主党は奴隷解放後は一転して「黒人優遇政策」を唱え出し、企業の入社や大学の入学などにおいて試験の成績に関係なく一定割合の黒人をパスさせる法律を作ったりしている。黒人層の九十%が民主党支持と言われるのも、この民主党の「黒人えこひいき政策」に由来するのだが、この歴史的経緯をみても日本人の多くが持つ「米民主党は弱者の味方」というイメージがいかに誤ったものか明らかである。

 マスコミでは、共和党ブッシュ政権についてネオコン(ネオ・コンサーバティブ派)という呼び方を多用しているが、このネオコンとは、元々はレオ・シュトラウスというユダヤ人政治学者を源流として、マルクス主義から保守主義に転向したW・クリストルという元民主党系評論家が中心となってつくった勢力である。要するに民主党右派が民主党のあまりの容共的左派体質に嫌気がさして内部批判を始めたものであり、共和党にしてみれば対外戦略においては従来の共和党イデオロギーとほぼ一致していただけのことだ。つまり日本で例えると、社会党が自民党に合流して自民党保守派政権が誕生したようなものが、アメリカでいえばブッシュ政権だということだ。民主党リベラルから転向したからこそ「ネオ」と付くのであって、本来の共和党員は単なるコンサーバティーブ(保守)でありネオコンには一人も該当しない。つまり日本の思想界に例えれば、戦前戦後一貫して保守の立場を堅持した田中正明氏や小堀桂一郎氏なんかがコンサーバティブであり、かつてはマルクス主義者でありながら保守に転向した西部邁氏や林健太郎氏なんかがネオコンという立場に該当する。

 W・クリストルに代表されるネオコン陣営は、クリントン政権のウィルソン的理想主義(国際主義)を非現実的な妄想だと断じる一方で、「今世紀に最も成功した米大統領はセオドア・ルーズベルトとロナルド・レーガンである」と述べてレーガン主義への回帰を主張している。セオドア・ルーズベルトもレーガンも共和党の大統領であり、両大統領を手本とするネオコン勢力が、民主党非主流派から共和党主流に合流したのは当然の帰結なのだ。いわばアメリカにおいて政界のイデオロギー再編が行われただけのことであり、ネオコンをまるで闇の陰謀勢力であるかのように批判する向きは、私には幼稚な陰謀論としか思えない。例えるならば、日本の民主党の若手議員たちが民主党の左派体質に嫌気がさして自民党に合流し国防力充実を唱えたところ、マスコミが「ネオコンが自民党を支配した」と騒ぐようなものである。

 ネオコンには内政面では民主党的なリベラル政策を唱える人物が多く、また対外戦略においては民主党の基軸方針たるグローバリズムを信条とするため、反グローバリズム思想を伝承とする共和党主流派と対立することも多い。従来より共和党にはアイソレーションズム(一八二三年にJ・モンロー共和党大統領が唱えたモンロー主義をルーツとする)という他国不干渉主義(反グローバリズム)が根強くあり、P・ブキニャンあたりがこの代表格だが、要するに米国民の生活を第一にしてなるべく外国のことには関わりたくないという考え方である。従ってネオコンが共和党で主流派となることは、このグローバリズムの是非をめぐる思想対立のために有り得ないのだ。ネオコンはユダヤ人が多いのだが、それはグローバリズムなる民主党の世界戦略の目的が、国際ユダヤ資本を中心とする世界中の米国の資産や利権を拡大し保護するために、世界をアメリカの「管理下」に置くことにあるからだ。従ってネオコンは、グローバリズムとシオニズムという元々は民主党の政治思想を併せ持つ「共和党の異端」なのであり、とりわけユダヤ人が中心であるためにシオニズムの要素が強い。シオニズムとは、一八九四年のドレフェス大尉スパイ事件をきっかけにテオドール・ヘルツルが著した『ユダヤ人国家』をそのルーツとして、十九世紀末に欧米で唱えられ始めたイスラエル建国運動であるが、エルサレムの主席ラビであるクック師「ユダヤ民族は神に選ばれた最優秀民族」だとして、ナイル川からユーフラテス川までの広大なる大イスラエル建設とユダヤによる単一世界秩序構築唱えたことから、現在はユダヤ民族至上主義運動に事実上転化している。

 しかし、ブッシュ政権は、ユダヤ系の支配するバーチャル金融経済「ニュー・エコノミー」を否定して実体経済復興政策を採るなど、このシオニズムから距離をあけており、パレスチナを国家承認する意向も持っている。米国歴代大統領の中で、パレスチナ国家承認を明言したのはブッシュが始めてだ。現にイスラエルのシャロン右派政権は、ブッシュのパレスチナ政策に反発して批判してきた。従ってイスラエルがこの時期にハマスのヤシン師とその後継者ランティシ師を殺害という強固策に出たのも、「テロの戦い」を呼号するブッシュ政権がイスラム過激派ハマスに同情的な対応を取れないことを見越して、あまりイスラエル寄りではない共和党をこの際に「パレスチナ側から見た敵」に仕立てて自国側に引きずり込んでしまおうという戦略である。ブッシュがイスラエルのこの暴挙(ヤシン師殺害)について消極的な発言しかできずに内心困っていると、案の定ランティシ師が「ブッシュは神(アラー)の敵」と気勢を上げた。実に巧妙なイスラエルの国際戦略である。ちなみにユダヤ人は全米人口の二%ほどなのだが、全米の金融・マスコミの大半を支配しているため政治的な力が強く、それに対して共和党の支持率基盤の一つである純粋愛国者組織「ジョン・バーチ教会」は反共と同時に反シオニズムも掲げており、「ユダヤ人は国際金融経済で世界を支配しようとしている」と主張している。共和党に対して親イスラエル政策を取るように要請しているのはユダヤ人ではなく、むしろ「聖書にあるようにエルサレムはユダヤ人が支配するべき」と考えるキリスト教福音派勢力なのである。

 ブッシュ政権発足時の閣僚は、白人男性六、白人女性三、黒人男性二、日系男性一、ヒスパニック系男性一、台湾系女性一となっており、ユダヤ系は一人も入閣していない。逆に民主党のゴアは、大統領選においてユダヤ補支持を表明していた。またゴアの娘もユダヤ人と結婚していて、先の大統領選ではユダヤ系米国人の八十%以上がゴア候補に投票したと推定されている。ちなみにクリントン政権においても、オルブライト国務長官、バーガー補佐官、コーエン国防長官、ドイチェCIA長官ら、主要閣僚の大半がユダヤ人だった。民主党のジョン・ケリーに至っては父方の家系がユダヤ人であり、大統領予備選の演説で「最も重要な同盟国はイスラエル」と述べている。アメリカでは従来よりユダヤ系の八割は民主党だといわれているが、それは民主党の多民族・多宗教寛容主義や「ニュー・エコノミー」志向にも関連する。

 民主党の政治資金を支えているのは、ニューヨークのウォールストリートを中心とする金融財界と米三大ネットワークを中心とするメディア業界だが、その両方ともがユダヤ資本であり、ユダヤ系財閥の王者ロックフェラー家もJ・D・ロックフェラー四世が民主党上院議員を努めている。ロックフェラー家で共和党員であったのは傍流のネルソン(当主である兄への反発とされる)だけであり、他は全て民主党支持を表明しているのだが、このロックフェラー家に代表される米国ユダヤ人社会は共和党保守派の持つようなパトリオティズムが薄く、金融による国際経済支配を重視するグローバリストである。ユダヤ人は昔から欧州全域に分散して金融業を中心に勢力を築いており、根無し草というか郷土防衛の概念よりも、世界中に築いたユダヤ・ネットワークの権益と資産を防衛することを最優先する。従って必然的に国際主義の政治的立場に立つ。AIPAC(米国イスラエル広報連盟)やZOA(米国シオニスト協会)など大手のユダヤ人組織は全て民主党の支持基盤となっており、いわばユダヤ人に票と資金を与えられた民主党はグローバリズムとシオニズムに重きを置いた政策へ必然的に傾く訳である。従って元民主党のネオコンが親ユダヤ的政策を持論とするのは、共和党ではなく民主党のカラーを引き継いでいるのである。そこを見誤ってはならない。

 ブッシュ政権には、大別して三つの派閥があり、最大派閥のラムズフェルドら共和党保守派、次いでライス補佐官などのキリスト教派、そしてネオコン派であり、日本のマスコミはネオコンばかりを強調しているが、ネオコン派は三派の中の最小派閥に過ぎない。ネオコンの操り人形であったイラク国民会議代表A・チャラビをブッシュが絶縁したことも、ネオコンの政治的影響力が限定的なものでしかないことを裏付けていよう。ブッシュ、チェイニー、ラムズフェルドらは、レーガンの伝統を受け継ぐ共和党本流の保守派であってネオコンには該当せず、「ネオコン支配」を強調する論調には、アメリカでは反共和党、日本では反米の意図がこめられている。この元民主党のネオコン派の中には「原爆投下は解放だった」と広言するものもいるが、一本の木を見て森全体を判断するような愚は避けるべきであろう。

 さて現在アメリカでは年間四万件の訴訟(一人あたりの件数は日本の約三十倍)が起こされているが、この訴訟原告専門弁護士業界(約四十%がユダヤ人)が一致して民主党を支持しており、民主党の重要な政治資金源になっている。ケリーが民主党副大統領候補に指名したエドワーズ上院議員も、元々はこの訴訟原告弁護士であった。アメリカでは賠償金支払を命じる判決に対して被告が控訴する場合、その賠償金と同額を供託することになっているため、賠償金が巨額になると控訴もできず会社が倒産しかねない。そのため企業側は訴えられると判決が出る前に和解しようとする傾向があることから、それを目当てに言いがかりのような賠償訴訟が大量に乱発されており、訴訟弁護士は和解でも報酬が入るために「子供が肥満したのはマクドナルドのせい」といった馬鹿げた訴訟でも引き受けるのだ。この風潮を憂慮する共和党は「訴訟亡国」を警戒して安易な賠償訴訟にブレーキをかけるため企業責任を限定しようとしているが、民主党の場合は「個人が企業を訴えた場合、必ず企業の方が悪い」といったマルクス主義的な視点が主流である。

 ちなみに日本でも深刻化している少年犯罪に対する姿勢も、共和党と民主党では大きく異なった差を見せている。例えば一九九三年以前のニューヨークは、民主党の知事と市長が少年犯罪への厳罰化に反対し続けたせいで「夜の一人歩きは自殺行為」と言われるような犯罪の巣となっていた。しかし一九九三年に当選した共和党のパタキ知事とジュリアーニ市長は、警官を大増員して少年犯罪の徹底取締と厳罰化を進め、彼らの任期中の四年間に殺人は三十四%減少、強盗も三十五%減少し、両氏は再選されている。犯罪を減らすことができるのは本物の保守政党だけであるという証左であろう。

 かつて米国でウーマンリブ運動が流行し、飛び火した日本では今や、夫婦別姓など家族制度の否定、田島陽子や福島瑞穂に代表される偏向フェミニズムやジェンダーフリーといった奇型的マルクス主義運動に化けてしまったのだが、その本家たる米国ウーマンリブ運動を指導していたのが民主党であり、今も民主党の支持基盤の一つにナショナル・オーガニゼーション・フォー・ウィメン(全米女性同盟)という組織がある。この組織はかつてのウーマンリブ運動、そして現在のフェミニズム運動の総本山のようなポジションにある。同組織の二名の共同会長(女性)は自分たちがレズビアンであることを公表して「レズであることがフェミニズムのあるべき姿」と主張しているが、キリスト教的観点からホモやレズを異端と見なし嫌悪する共和党に対して、民主党がやたらとホモやレズに迎合するのはそれがフェミニズムの一形態とされるからである。このフェミニズムの源流はエンゲルスの著作に由来するもので、前述のようにエンゲルスは家庭制度を「夫は家族の中でブルジョアであり、妻はプロレタリアート」と規定して「女性を家内奴隷から解放せよ」と説いている。フェミニズムとかウーマンリブとかの類いは例外なくエンゲルスのこの思想をルーツとしており、要するにそれらは共産主義イデオロギーの中の一種なのだ。

 ところでこのようにアメリカの世論が明確に二分割されていったのは、戦後においては主に一九六〇年代を一つの境にしている。ベトナム反戦運動を是とするか否とするか、ヒッピーやフリーセックス、ウーマンリブや中絶や同性愛といったライフスタイルを許容するか否か、「黒人優遇政策」を是とするか逆差別だと考えるか、これらの価値観の相違が米国民をピッタリ二等分し、共和党と民主党がそれぞれの価値観を代表する立場が定着したわけだ。共和党のレーガン大統領はその八年間の任期内に、それまでアメリカの社会運動に浸透してしまっていた共産主義とアナーキズムを大掃除した。(ちなみにこれは今の日本にとって最も必要な大掃除である。)ヒッピーやウーマンリブといった従来の左派的社会現象にうんざりしていた都市部の白人労働者を中心とする民主党員は、こぞってレーガン支持に転じ「レーガン民主党員(デモクラッツ)」という言葉が誕生した。このレーガンファン民主党員は熱心な反共主義者となり、ルーズベルト政権以後「ニューディール連合」と呼ばれた民主党支持基盤は分断されて、これらレーガンファンの反共派は共和党へと移籍していった。かくて容共派だけが民主党に残ることになり、クリントン時代の親中路線を支持するに至ったのである。クリントン時代には、クリントンのベトナム反戦運動歴や徴兵逃れの過去、女房ヒラリーがウーマンリブや「子供の権利条約」など左派運動のカリスマであること、クリントン自身の幾多のセックススキャンダル、いわゆるホワイトウォーター疑惑に代表される金権主義、中共や北朝鮮といった共産主義国との蜜月ぶり、これらの諸要素はまさに共和党支持層にとって最も忌み嫌う反価値的なものであり、共和党支持層の多くは「クリントン・ヘーターズ」(クリントン憎悪者)と自称して民主党との溝は一層拡大していった。このように両党の政治的信条は内政面でも大きく異なっており、反共を長年の党是とする共和党に対して、容共主義的な民主党政権はこれまで共産主義国に利用されてきた歴史がある。

 例えば、民主党のルーズベルト政権であのハルノートはハルが書いたものではなく、その原稿を執筆したのはハリー・D・ホワイトという財務省特別補佐官だが、この人物はソ連KGB工作員であったことが一九四八年七月に発覚し、しかもそのわずか一ヵ月後の八月十六日に突然の変死をとげている。おそらくKGBによって消されたのではないか。アメリカをソ連の見方として参戦させるために、ソ連のビタリー・パブロフという工作員から「日本が絶対に受け入れられない条件を書いてくれ」と依頼されたホワイトは、日本を追いつめるためにもハルノートを作成したのだ。詳しくは次章で述べるが、ルーズベルトのニューディール政策は共産主義的な面があるため、マルクス・レーニン主義者が大挙して政権要所に入りこんでソ連のために日米開戦を誘導し、また共和党マッカーシー上院議員のレッドパージ(アカ狩り)の対象の大半が民主党左派であり、ソ連のスパイとして協力してきた者の大半は民主党支持者であることからも、民主党の容共的左派体質は明らかなのだ。そしてそのため民主党と中国共産党の結び付きも、共和党とは比較にならない程に深いものがある。

 クリントンは一九九六年の大統領選において中共人民解放軍から三十万ドルの献金を受け、それ以降もクリントンやゴアなど民主党要人の多くは中共から総額一千万ドル以上の裏献金をインドネシア・香港・マカオを経由して受け取っていた。インドネシアの華僑である李文正は中共がインドネシア経済支配のために送り込んだエージェントだが、この李文正は一九七〇年代初頭に米国アーカンソー州に銀行を設立し、その経営を息子に任せている。実はこの銀行の顧問弁護士がヒラリー・クリントンであり、李文正は中共から民主党への裏献金を中継するマネージメント役を行ってきたのである。また中共は在米華僑のリアディーズ財閥を通じて民主党系の二つの所属するアーカンソー州ローズ法律事務所であり、もう一つは民主党元全国委員長C・マナットが主宰するロサンゼルスのマナット・フェルブス法律事務所(民主党のカンター元通称代表もここに所属)である。米国情報筋によれば、クリントンはこの中共からの闇献金受領に関するやり取りを密かにビデオに撮られてしまい、そのためにクリントンは核開発の極秘データを中共に提供している。ついでに付記すればクリントンはアーカンソー州知事時代に、横山ノックの紹介で朝鮮総聯系大阪在日朝鮮人商工連からも多額の献金を受けており、まるで民主党親中朝派政治家や社会党のように中朝のカネに汚染されていたのだ。まさに容共主義の伝統を持つ民主党ならではの腐敗した政権がクリントン政権であった。

 民主党大統領候補のジョン・ケリー上院議員もその例外ではなく、一九九六年に中共人民解放軍傘下の「中国航天国際公司」役員の劉朝英(人民解放軍の現役軍人)が米国の中国人実業家ジョニー・チャンに三十万ドルを託し、チャンはこの金をケリーに闇献金している。中共のヒモ付きとなったケリーは、人民解放軍系企業の米国証券市場上場に便宜をはかるなどの中共のエージェントとしての役割を果たしたが、一九九八年ジョニー・チャンがケリー及びクリントンへの不正献金で逮捕され有罪確定となると「金はチャンに返した」と言い張った。自らも後ろめたいクリントン政権が当局に圧力をかけてケリーは訴追を免れたが、もし共和党政権下での発覚であれば逮捕されていた可能性もある。

 この不正献金を自著でスクープしたのは米上院外交委員会元主席W・C・トリプレットだが、クリントンら民主党首脳が中共から一千万ドル以上の闇献金を受け取った行為は、アメリカでは「国家反逆罪」に該当する。しかしFBIが報告したこのクリントンの「国家反逆罪」について、クリントン政権の司法長官は捜査の打ち切りを命じ、米国民の目をそらすカモフラージュとして、ルインスキー裁判偽証事件を前面に押し出して捜査を命じた。当時「なぜ米国司法長官は自らの政権の大統領を偽証で訴追させたのか」と不思議に感じていた方もおられるであろうが、その背景にはこういう事実が存在していたのだ。また共和党もアメリカの名誉に鑑みて「アメリカ大統領が中共からワイロを受け取っていたなどということは、民主党の問題のみならずアメリカ国家の恥だ」と考え、敢えて執拗な追求は控えている。橋本元首相の中共スパイ愛人問題で、西村真悟代議士が批判はしても敢えて執拗な追求を控えられたが、それと同じような想いが共和党にもあったのであろう。

 ちなみにクリントン政権下のバーガー安全保障担当補佐官は元々は中国ビジネス専門のロビイストであり、ペリー国防長官(第一期)は現在北朝鮮ビジネスのロビイストになっており、コーエン国防長官(第二期)にいたっては中共との貿易コンサルタント会社の経営者でもあった。このコーエン元国防長官は二〇〇三年一月に日本の国防筋に対して「北朝鮮の核兵器保有を日本は容認できないか」と打診してきた人物である。そして勿論のことクリントン自身も退任後は複数の中共企業の顧問を務め、たっぷり顧問報酬を受け取っている。このように中朝利権につながる人物たちがアメリカの安保・国防政策を指揮していたのがクリントン民主党政権であった。この中共マネーの民主党汚染について近頃、共和党ギングリッチ前下院議長は「クリントン政権に関していえば、あの連中は本当に恥知らずな連中というしかない。本当に腐敗した人間たちだった。しかし現ブッシュ政権に関していえば、正直な人間だ。ブッシュは約束を守る。彼は日米同盟の信頼関係を壊すようなことは、絶対にやらない。ブッシュは日本を裏切ったりしない」と日本人記者のインタビューに答えている。

 現在アメリカには、約一万五千人の中国人のロビイストが存在しており、その大半は民主党と太いパイプがある。一例を挙げると、アメリカにおいて政治や経済などの分野で成功し社会的影響力を持つ在米華僑約百人が、一九九〇年に「百人委員会」というロビー組織を結成した。そのメンバーは現在は五百名近い人数に膨らんでいるが、主要メンバーとしては、中国系で初めて州知事になったワシントン州知事ギャラリー・ロック、コロンビア・トライスタ・ピクチャーズ社長のクリス・リー、カリフォルニア大学バークレー校前総長のチャン・R・ティエンなどが名を連ねている。このような中共のロビー組織は大小合わせて全米に無数に存在しているが、一方日本はマトモなロビー組織を持っておらずロビー活動も何も行っていない。なお共和党に対するロビー活動は台湾のロビイストの方が活発なのだが、民主党は伝統的に嫌日傾向と中共よりのスタンスが強く、ヒルズ元通商代表、ヘイグ元国務長官、民主党上院議会の有力者ダイアン・ファインスタインなどは今や完全に中共のエージェントとなっている。

 これらの多くの中共ロビー団体に加えて、現在「米中通商ビジネス評議会」(グリーンバーグAIG保険会長)と「米中通商ビジネス連合」(GM、モービルエクソン等が中心)という二つの圧力団体が、中国市場の参入のために中共重視の政策を取るように民主党を動かしている。さらにクリントン時代に中共は人民解放軍のフロント企業を全米に二千社以上設立し、その各社を通じて地元の民主党議員の懐柔を進めており、ブッシュ政権下でDIA(国防総省情報局)がこれを警戒するレポートを発表している。つまり中共と民主党はもはや切っても切れない「裏のつながり」を構築しており、民主党の本音は「中共十三億人のマーケットをユダヤ資本で独占したい、日本の防衛なんかのためにアメリカが血を流すのはまっぴら御免」といったところなのだ。クリントン政権で国防次官補を務めたジョセフ・ナイは、二〇〇三年九月に朝日新聞で同紙論説主幹と対談し、「私は米中の敵対を信じてきませんでした」「日本に憲法改正の必要はない。むしろ危険です。中国や韓国など近隣諸国に不安を抱かせますから」と述べているが、中共に批判的な産経や読売ではなく中共シンパの朝日で対談するところが、中共と手を組んで対日封じ込めを推進する民主党要人らしい選択である。

 民主党の方針を知るために分かりやすいのは、クリントン政権下における民主党系シンクタンク群のレポートであろう。それらのレポートでは「中国が国際秩序に対する脅威だと主張している保守派の見方は単純すぎる。中国は柔軟性があり、アメリカは中国に的確に友好的にコミットしていくべきである」「もし日本が本気で再軍備を行ったら、二〇二〇年〜二〇三〇年までには軍事大国化して、アメリカが唯一の軍事的強国ではなくなってしまうリスクがある。日本の軍事的自立は抑えるべきである」「日本は中国や東南アジアに対して、ドイツを見習って徹底した謝罪を行い、従軍慰安婦その他の戦後賠償を実行するべきである」等々といった趣旨の文言が並んでいる。つまり中共は勿論のこと、日本の左翼が読んだら大喜びしそうな内容に満ちているのだ。

 クリントンは就任後の記者会見で国際経済競争力について述べる中で、世界中のプレスを前に「米国の敵(エネミー)は日本だ」と発言した。アメリカ大統領の口からエネミーという言葉が日本に対して用いられるのは、講和条約発効以来これが初めてである。その言葉どおりクリントンは日本を「防衛タダ乗り」だと非難して、貿易輸入の数値目標を強固に日本に押し付けたが、この時期クリントンの命令でCIAは通産省の電信電話を盗聴していた。これはもうとても同盟国とは呼べない関係だ。一方、一九九五年九月に沖縄で米兵の小学生暴行事件が起こった際、日本の左翼は大々的な反米デモを展開したが、このデモを見た共和党は怒るどころか逆に「クリントン政権は貿易戦争をしかけて反米感情を煽り日米同盟をぶち壊している。民主党は現在の対日政策を転換せよ」と議会で激しく追求している。これは金よりも安全保障を優先させる共和党らしい政治反応である。

 同一九九五年、台湾の李登輝総統のワシントン訪問の査証発行をクリントンは拒否した。日本の外務省じゃないが中共に対して遠慮したのだ。これに対して共和党のギングリッチ下院議長を始め共和党議員の多くが「台湾関係法の趣旨に反する」とクリントンを激しく非難し追求したために、結局クリントンは拒否を撤回して渋々ながら査証を出している。クリントン政権は下院では少数であり、議会は共和党が制していたため、クリントンは逆らえなかったのである。また一九九六年に中共が台湾海峡へミサイルを発射した時にも、当初クリントンはいかなる軍事的アクションを起こすことも拒否した。しかし共和党が空母急派を強く要求し、共和党のC・コックス下院議員が中心となって民主党の一部を説得し、超党派でクリントンを強く責め立てた。下院で多数派であった共和党は「空母を派遣しないならば、下院で大統領の問責決議を行う」と主張し、中共に媚びたいクリントンも淡々ながら空母派遣を命じたのである。共和党と民主党のスタンスをよく知らない台湾人の場合、クリントンに感謝している人もいるようだが、それは大間違いということだ。民主党に台湾防衛の意思は希薄なのだ。

 それに対してブッシュは一九九九年十一月十九日の外交演説で「台湾の自衛力強化を支援する。アメリカは中共の武力侵攻を許さないという、台湾の人々との約束を守る。民主主義体制をとる台湾に北京政府が自分たちのルールを強制する権利はない」と述べており、実際に台湾への軍事協力も増加している。ブッシュ政権は台湾空軍に対して中距離空対空ミサイルAIMー120(アムラーム)の提供を決定しており、共同で実射試射演習を行う計画であることを台湾各紙が報じている。またブッシュは台湾のWHO加盟を支持する法案にも署名しており、中共はこれを「台湾独立へ向けた策謀をブッシュと陳水扁が表裏となって進めている」と批難しているのだ。

 ブッシュが中共に対して「台湾独立を支持しない」と発言を行ったのは、「中共が現在台湾海峡に配備している四百五十基のミサイルを撤去するのであれば」という前提が付随しており、イラクゲリラの抗戦や北朝鮮が片付いていない段階で、万一中共が台湾攻撃に至るとアメリカの手に負えなくなるために予防線を張ったわけである。つまり「イラクと北朝鮮が先だから、台湾問題ではとりあえず中共をなだめて時間稼ぎしておこう」ということなのだ。クリントンが一九九八年に中共に迎合して「三つのNO」(台湾独立不支持、「二つの中国」政策不支持、台湾国連加盟不支持)を安易に口にしてしまったこととは、その根本において全く違うのである。

 パウエル国務長官は「台湾はプロブレムではない。台湾はサクセスストーリーだ」と述べており、共和党のこの基本的スタンスは決して変わらない。だまし合いこそが国際外交であり、その時の状況に応じて表明するコメント内容も「政治的に」変化する。田中真紀子じゃあるまいし、馬鹿正直にホンネを話していればそれは外交ではない。李登輝も元総統も「(台湾独立を支持しないという)ブッシュ発言は戦術にすぎない。戦略的にみれば、長期的に中共は米国の敵に必ずなる。戦略と戦術とは往々にして異なることがある。つまり九・一一テロそしてイラク戦以降、共和党が米中デタントを進めたように見えるのも、敢くまでも戦術であり、アルカーイだ、イラク、北朝鮮との対決を優先するために、中共が安保理などでやたらアメリカに反対しないようにおとなしくしていてもらおうというリップサービスなのだ。

 二〇〇一年五月二十一日、ブッシュは陳水扁台湾総統の訪米を即諾しており、陳水扁は共和党首脳との会談を行っている。さらにその二日後の五月二十三日、中共のチベット支配から満五十周年となるこの日に、ブッシュはダライ・ラマと公式会見を行った。陳水扁とダライ・ラマという中共が最も敵視する人物がワシントンを公式に訪れたことについて、江沢民は「民主党政権ならば、こんなことにならなかった」と側近に対して激しくブッシュを罵ったとのことである。中共からの献金をたっぷり受け取っているゴアが大統領だったならば、台湾やチベットの元首と会うことはなかったであろうということだ。

 さて両党の違いは中共や台湾へのスタンスのみならず、対外経済政策においても際立った差を示している。一九九八年七月、ロシアの金融危機に際してクリントンは、日本政府に「ロシアに十五億ドルの援助をせよ」と要求し、北方領土問題もあって対露援助を渋る日本に「日本を守ってやっているのは米国だということを忘れるな」と恫喝した。日本に対露援助を要求したその目的は、日本の金融支援で時間をかせいで暴落前にアメリカ金融資本を引き上げ、暴落の損失を日本だけに押しつけることにあった。この対日姿勢こそ民主党政権が日本をどのように位置づけているかを如実に示すものである。

 ちなみに一九九七年のアジア金融危機を仕組んでASEAN経済を潰してその台頭を阻止したのも、クリントン政権であり、その「共犯者」はジョージ・ソロスである。しかし共和党は、クリントンやルービン財務長官そしてソロスを猛烈に批判し、当時テキサス州知事であったブッシュも「IMFと世界銀行は間違っている」と明言している。共和党系シンクタンクのヘリテージ財団は一九九五年に世界銀行不要論を提唱しており、反マルクス主義の思想が強い共和党は民主党よりも自由主義経済志向の度合いが高く、アメリカの都合だけで他国に金融危機を仕組むのは自由競争原理に反するとという考えなのだ。ちなみにブッシュ政権の財務次官に就任したJ・テイラーも、一九九八年にテレビインタビューで「IMFは廃止されるべき」と述べているが、共和党からみれば、民主党の支持基盤たるユダヤ金融資本が儲けるための道具でしかないIMFなんて不要だということだ。つまりブッシュはバーチャル金融経済のグローバル化にたいしても「宣戦布告」したのである。そのためブッシュに再三批判されてきたソロスは「打倒ブッシュ」を宣言して民主党ケリー候補への資金援助を行っている。ソロスはクリントン同様にかつて「日本は(経済戦争の)交戦相手だ」と述べたこともある人物で、クリントン政権の経済面でのジャパン・バッシングを操作した黒幕でもある。

 この民主党政権時代に比べると、共和党ブッシュ政権に交替してからの米国が、日本に対して強圧的な経済圧力をかけたことが一度でもあったであろうか。ブッシュ父にしても日本のマスコミに「セールスマン」と皮肉られたが、高圧的な姿勢を示したことはない。現に米国の狂牛病発生に伴う輸入停止についても、ブッシュ政権は輸入再開を頼んでも圧力をかけてはいない。北朝鮮からの防衛や被拉致日本人奪還への協力といったカードを使って日本に輸入再開のバーター交渉することは可能であり、クリントンならばそうしたであろうが、ブッシュはそれをしない。それは「経済と安保は別だ」という共和党の信念、そして他国への交渉・外圧を嫌うアイソレーショニズム(反グローバリズム)の党是に基づく。つまり、経済などで日米の関係が悪化するのは、ほとんど民主党政権の時なのだ。

 クリントン政権のミッキ・カンター通商代表は「これまでタダで日本を守ってやった分の報酬を請求しようではないか」と演説したことがある人物だが、このカンターとクリントンとルービン財務長官の協議により「日本に外交圧力をかけて貿易赤字を減らすための指令塔」という位置付けでNEC(ナショナル・エコノミック・カウンシル)が創設されている。しかし共和党はこのNECの創設にも強く反対しており、その急先鋒の一人がブッシュだった。また一九八八年に民主党のゲッパート下院議員がいわゆる「ゲッパート修正法案」を提出し、日本を標的としての「対米輸出が米国からの輸出の五十五%を超える国に対しては二十五%の課徴関税をかける」という法案を当時議会多数派の民主党の強行採決で導入しているが、クリントン政権が頻繁に発動した包括貿易法「スーパー三〇一条」は同ゲッパート法案を具現化したものである。一方ブッシュ政権は二〇〇二年にこの「スーパー三〇一条」は期限切れだと声明し、日本に対してこのような外圧を加えない旨を対日方針の基本に位置付けた。日本経済に薄陽が射しこみ始めたのは、ひとえに共和党政権発足に由来する要素が大きい。

 しかし現在、ジョン・ケリーはその政策表明演説の中でこの「スーパー三〇一条の復活」を唱え、「日本は為替相場を不当操作しており、市場も閉鎖的」だとして、「もし当選すれば、現在の(日米)二国間貿易協定全てを百二十日間凍結して見直し、真に米国の利益に役立つ協定だけを更新する」と宣言している。つまりケリーは再び「米国の敵(エネミー)は日本だ」と対日経済戦争再開を予告しているのである。「ケリー議員の日本への言及が経済面での非難に限られている点は、ブッシュ政権が対テロ戦争やイラク復興での日本の協力に謝辞を述べ続けるのときわめて対照的となった。(小略)日本に対しこうした経済や貿易だけをみて、しかも協力者というよりは対抗者、競争者とみなし、厳しい非難や批判を浴びせるのは、一九九三年に登場したクリントン政権の姿勢とも酷似している。その一方、ケリー陣営は日本との同盟関係の現在や将来のあり方にはなにも言及せず、目前の経済関係だけをみて、安保などの協調面は論じていない」(産経新聞)ということである。ケリーは「ブッシュ政権は日本を甘やかしており、日本が自国通貨の相場を不当に操作して低く保っているのは放置している。私は日本を甘やかさない」とも演説で述べており、このように民主党は過去もずっと日本を力で抑えつけてきたし、これからも日本を力で抑えつけようとしているのだ。この民主党の手法について、ブッシュ政権の経済担当大統領補佐官であるR・リンゼーは「アジア太平洋地域の関係は、クリントン政権のジャパン・パッシング政策によって根底から阻害された。クリントン時代の米日関係は、外圧という一語に集約される。そうした外圧手法による依存が米日間に混乱をもたらし、両国関係改善に不可欠な創造的志向を阻んできた。外圧に代わる米日相互の協力と尊重の政策が必要不可欠だ」とクリントン政権を非難している。共和党と民主党がそれぞれ対日方針の中心に何を据えているのか、ブッシュやレーガン、そしてクリントンやケリーの対日政策を並べてみれば、その違いは歴然としている。

 アメリカに投資された日本の金融資産を円高で溶かしてしまうシナリオを作成したのもIIE(国際経済研究所)という民主党系のシンクタンクである。IIEはユダヤ系財界人らが民主党政権を通じて世界の為替と金融システムを監視し対抗策を練るために創設されたものだが、その第一の標的は日本に他ならなかった。クリントン政権のルービン財務長官は、橋本政権に対して日本金融市場開放、いわゆる「金融ビッグバン」を強固に要求し、その結果として山一證券はメリルリンチに、東邦生命はGEキャピタルに、長銀はゴールドマンサックスの仲介によってリップルウッド・ホールディングに、それぞれ米資本の手中に陥ちた。ちなみに長銀の不良債権処理によってリップルウッド・ホールディングには日本の国費から約八兆円が投入され、その内の約三兆二百億円は国民負担となっていて戻ってこないのだが、リップルウッド・ホールディングは長銀の営業権を僅か十億円で買い、さらに第三者割当増資の一千二百億円を加えて加えて合計一千二百十億円の金で長銀をその手中に収めている。日本国民が自腹を切らされた三兆二百億円(赤ん坊まで含めて日本国民全員が一人あたり二万円弱の負担)を含め八兆円もの国費を注ぎこんだ長銀は、その百分の一近くの二束三文の金で米資本になってしまったのだ。しかもクリントン政権の圧力で「旧長銀から継承した貸出資金の実質価値が三年以内に二割減少した場合は、日本国が薄価で買い取る」という信じ難い不平等な契約まで結ばれている。こんな条件で経営が失敗することは有り得ず、長銀を新生銀行として上場させることでリップルウッドは巨額の利益を手にしている。つまり日本国、日本企業、そして日本国民はとことん骨までしゃぶり尽くされたということだ。

 このルービンは元々ゴールドマンサックスの会長であり、財務長官退任後はリップルウッド・ホールディングの役員に就任している。またそもそもルービンが財務長官に就任したのか、一九九二年の大統領選でゴールドマンサックスが民主党陣営の莫大な資金提供を取りまとめした見返りからだ。ゴールドマンサックスは長銀で儲けた金を中共の企業(半導体メーカーのSMIC、平安保険)に投資している。つまり日本人の税金が結局そのまま中共資本に化けたのだが、これを仲介したのもルービンだ。つまり現在も日本企業を食い荒らしている外資の正体なるものは、民主党と太いパイプを持つユダヤ資本だということである。

 加えてクリントンは米国に進出した日本企業を徹底的に叩くために、その任期内に様々な「いじめ」を行っている。その実例を少し紹介しよう。一九九六年、クリントン政権下の政府機関であるEEOC(雇用機会均等委員会)は、米国三菱自動車に対してセクハラ賠償訴訟を起こした。EEOCは同社の女性従業員に対して「訴訟すれば一人最高三十万ドル、総額二億ドルの金が得られる」とPRして被害者を「募集」しており、日本の左翼団体が韓国でやった慰安婦募集と何やら酷似した手口だが、このように最初から同社を叩くために捏造されたセクハラ訴訟だったのである。しかしアメリカにも正直な善意の人々はやはり存在する訳で、同社従業員の半分に相当する約二千五百人の社員が「我が社にセクハラは存在しない」と主張してEEOCへ大々的な抗議デモを行った。ちなみにこの時、日本の外務省や通産省は何をしたのだろうか。実は何もしなかったのだ。それどころかセクハラ問題は左翼の得意分野だとばかりに、朝日新聞は「セクハラは実在した」と決めつける報道を行っている。自国企業を助けようともしない日本政府、そして逆にバッシングに回る日本のマスコミに愛想をつかした米国三菱自動車は、二億ドルもの供託を回避するために泣く泣く三千四百万ドルを支払う和解に応じざるを得なくなった。ところがこれに味をしめたEEOCは、なんとその三ヵ月後に今度は「三菱の採用試験に落ちた者の中に腰痛や喘息の患者がいたことは採用差別だ」と訴えて、同社からさらに三百万ドルの和解金を取り上げている。

 また同じ一九九六年には、米司法省が米国旭化学を「部品の一部が中国で組み立てられているのに、組み立ては香港だと表示している」との理由で告訴した。しかし米連邦取引委員会規定では「部品の七十五%以上が組み立てられた国を又は地域を表示して可」と定められており、同社は七十五%以上を香港で組み立てていることから、米司法省の主張は完全な言いがかりでしかない。この件においても日本政府は指をくわえて座視し、旭化学は二千万ドルの和解金を払わされた。このようなクリントン政権による在米日本企業弾圧は枚挙するとキリがないが、一九九九年にはなんと呆れ果てたことに、米国東芝が「ノートパソコンに欠陥がないという証明が完全にできない」という理由で実に十一億ドルもの和解金を払わされている。同裁判では「欠陥がある」という証明は一切不要とされ、米国東芝だけが「欠陥のない証明」を要求された。しかし欠陥を見つけるのは簡単でも、まったく欠陥のない場合それを「証明」するような方法は存在しない。その結果、全米の同製品ユーザーが誰も欠陥を訴えていないにも関わらず、同社はそれまでに米国で売り上げられたノートパソコンの利益を全て投じても足りない和解金額を払わさせられたのである。

 ちなみにクリントン政権末期には、民主党知事の下にカリフォルニア州大気支局が、米国トヨタ自動車に対してでっちあげの計測値を口実に規則違反(しかも事後法による規制値!)だと言いがかりをつけて、二百二十万代のリコールを命じた。トヨタ側が「違反はない」としてリコルを拒むと、今度は米司法省がトヨタ史上空前の七百億ドル(約七兆円強!)もの損害賠償を起こしたのである。(なおブッシュ政権下においては、在米日本企業にこのような圧力が加えられたことは一切なく、二〇〇四年に米国トヨタ自動車は米国進出以来初めての販売数百万台突破を達成したことを付記しておく。)このように民主党政権下では在米日本企業は標的にされて理不尽な「いじめ」を受け、それまで米国で上げた利益を軒並み吐き出させられ、クリントンの「米国の敵は日本」という対日経済戦争の餌食となってきたのである。

 なお経済面では、日本人が強く警戒するべき民主党のある狙いだけは、留意しておく必要がある。これはM&Aを手広く手がける大物経済人から聞いた話だが、民主党とユダヤ資本は日本の保有する米国債(三百数十兆円相当)の事実上の棒引きを狙って、日本経済クラッシュを仕掛ける可能性が高いとのことだ。つまり日本を完全に経済的に破綻させてIMF管理下に置き、タダ同然で放出された米国債を買い取ってしまえば、アメリカが負う世界一の対外債務は消失し、「双児の赤字」の片方はなくなる。韓国はすでにこの経済クラッシュを仕掛けられてIMF管理下で米国債を手放すこととなり、韓国大手企業の大半は底値で買い漁られてすでにユダヤ資本になっている。クリントンは韓国に引き続いて日本もそこまで追い込む腹づもりであったが、韓国とはケタが違う日本経済の底力がそれを阻んだということだ。クリントンの対日経済戦争の背景には日本から米国債を取り上げる狙いがあったという、その指摘が当たっているのであれば、共和党政権の間は鳴りをひそめていても再び民主党政権となれば、おそらく日本経済クラッシュを目指した対日経済戦争が再開されることであろう。この情報を教えてくれた経済人は「もしケリー、ヒラリーと民主党政権が二代続けば、日本はもう終わりでしょう」と危惧しておられた。

 実はこの指摘を裏付けるかのように、二〇〇一年九月五日、訪米中の柳沢金融相はケーラーIMF専務理事に対し、日本がIMFの記入審査を受け入れることを表明している。共和党ブッシュ政権が反IMFの立場であることを知らないのか、柳沢金融相は安易にも民主党=ユダヤ金融資本の従来の対日経済戦争シナリオ通りに、日本経済をIMFの管理下に入れるドアを開けてしまったのである。つまり「ブッシュ政権には国際金融資本と直接つながる閣僚がスタッフがほとんどいません。(小略)小泉首相は、アメリカの国益を第一とするアメリカと、国際金融資本の利益を第一とするアメリカの、二つのアメリカの区別がついていません:(藤井厳喜拓殖大客員教授)という小泉政権の米国政情認識のアバウトさが、民主党が仕掛けた罠に日本を自ら追い落としているのだ。せっかくフェアな対日政策を採る共和党政権(リンゼー補佐官などは日本によるアジア円通貨圏構築を望むコメントを出しているぐらい!)の折に、何故このような愚かな行動を自ら取るのであろうか。共和党が望んでいるのは、日本がIMFの管理下に入ることなんかではなく、日本が国家として自立して米国と共に戦える国軍を持つことなのである。

 ともあれクリントン政権はこのように、すべてからく安保より経済、つまり「力より金」で国際戦略を立て中共に媚びて日本を叩き続け、結果的に中共の軍事超大国化を招くこととなった。また北朝鮮を甘やかした結果、一九九四年の米朝核合意を反故にされ、それでも対北外交の破綻を認めずに毎年五十万トンの重油を与え続けたこの北朝鮮への政治姿勢も両党では全く正反対の位置にある。一九九四年七月に金日成が死亡した際、米政界ではどのようなコメントを出すかで両党が対立し、共和党は「金日成は朝鮮戦争の戦犯にして凶悪非道な独裁者であり、米国が哀悼の意を表すべき相手ではない」と大統領名での談話を公表し、共和党を「幾多の国際テロの張本人を米国民を代表して悼むとは何たる非常識」(ラムズフェルド)と激怒させた。またクリントン政権が独断で北朝鮮に約束した「軽水炉二基プレゼント」「年間五十万トンの重油の十年間無償援助」について、共和党は一切その財政支出を認めないと上下院で決議したが、クリントンは「日本及び韓国に負担させる」と言い張ってこれを強行している。

 このクリントンの対北交渉について共和党のリチャード・アーミテージ(現・国務副長官)は当時「もし、きちんとした外交のエキスパートを備えた共和党政権ならば(小略)米国は北朝鮮に圧力をかけただろう」「日米ともに指導者が悪すぎる」と率直にコメントしていたが、当時の日本の「悪すぎる」指導者とは細川・羽田・村山の各政権である。クリントンは一九九五年北朝鮮への経済制裁を全面解除しようとしたものの、議会共和党の抵抗によって僅かな範囲にとどまった。しかし二〇〇〇年六月には、北朝鮮のカラ約束にすぎない長距離ミサイル発射実験凍結合意と引き換えに、クリントンは対北経済制裁の事実上全面解除を強行した。これに対して共和党は「今や米国は、地球上で最も抑圧的な共産主義政府の支持者になろうとしている」(ヘルムズ上院議員)と猛反発し、同年七月二十七日に共和党コックス下院議員らが下院に提出した「クリントンはゴアによる北朝鮮への援助が金正日の百万人軍隊を支える」というタイトルの報告書では、クリントン政権の対北認識も政策も「単に危惧というだけでなく狂っている」と断じ、「金正日の百万人軍隊がプルトニウムで武装するのを支援するという真に狂った政策を即時中止せよ」と要求している。議会への公式報告書にMADやCRAZYという単語が散りばめられたコックス・レポートは、共和党の激しい憤りを如実に示すものである。

 二〇〇一年一月、ブッシュ政権発足直後にウォルフォウィッツ国防副長官は「我々はもはやこれらの邪悪な勢力(北朝鮮・イラク・イラン)と共存していくことはできない。これまでクリントン政権はこの勢力をいわば必要悪と考えてきた節がある。しかしこれらは不必要な悪だ」と述べ、その共和党の信念は翌二〇〇二年一月ブッシュの「悪の枢軸」演説へと結実するに至った。この「悪の枢軸」演説について、北朝鮮脱北難民の人道支援で有名なN・フォラツェン意思は「私が話した全ての脱北者たちがブッシュ大統領の言葉に喜びを表していた。彼らは、自分たちが耐えてきた地獄を外の世界が理解してくれたという想いを抱いた。レーガンのソ連「悪の帝国」演説と同様に、ブッシュの「悪の枢軸」演説はやがて金正日の残酷な崩壊を導き出す希望に満ちている」と高く評価し、一方で同演説を批判した民主党そして日欧の反米勢力に対して「自ら恥じるべきだ」と断じている。

 なお六ヶ国協議について「アメリカは北朝鮮問題を中国に丸投げした」と言う人もいるが、本来共和党が日米韓朝四ヶ国協議を想定していたものを、そこにわざわざ「中国を加えてくれ」と頼み込んだのは日本なのだ。また「アメリカが柔軟姿勢に転じた」と批判する強固派もいるが、それをアメリカに要請したのは日本であり、「今や日本は真の最重要同盟国だ。強固な日米関係を維持する目的で日本の声を立てた」(アーミテージ国務副長官)ということなのである。アメリカはもはやクリントン時代の対朝スタンスを一変させており、中朝に媚びているのは相変わらず日本だけなのだ。

 ブッシュは「暴政の下で生きる人々に対し、私は常に同情の念を抱く」とコメントして、二〇〇一年に三十四万トン、二〇〇二年に十五万五千トンの穀物を北朝鮮に援助しているが、これは交戦中のアフガニスタンでも空中から地元民に食料パックを投下し続けたことと同じく、ブッシュのヒューマニズムに由来する。それに対してクリントン政権は一九九六年一月に北朝鮮に二百万ドルの資金援助を与えたのを手始めに、同年八百二十万ドル、一九九七年は、五千七百ドル、共和党の抵抗で金を出せなくなってからは一九九八年に穀物五十万トン、一九九九年は穀物六十万トンとジャガイモ種子一千トン、二〇〇〇年は穀物三十万トンという膨大な援助を与え続けた。要するにアメリカ流の「太陽政策」を行ったということだ。なおケリーは「核問題は米朝直接交渉で解決するべき」と主張し「私が大統領に当選したらクリントン政権の解決方法を復活させる」と述べているが、そうなると日本は再び重油や軽水炉のコスト負担を押しつけられるのであろうか。

 このような民主党政権の北朝鮮や中共に対する外交姿勢を鑑みると、クリントンが河野洋平や加藤紘一とオーバーラップしてくるが、実は元々親中嫌日傾向にあった民主党はクリントン時代に完全に中共に取り込まれてしまったということだ。そして中共の日米離反戦略そのままに、中共と手を組んで日本封じ込めに動き出している。勿論そのカギとなっているのは「歴史観」なのだ。例えば一九九六年末に、中共ロビーの要請を受けたクリントン政権は、歴史的事実の検証もせずに、単なるホラ話に過ぎない「慰安婦強制連行」の関係者とされる方々、そして過剰な歪曲捏造がなされている「七三一部隊」(共産党員森村誠一と「赤旗」記者が共著で出したニセ写真だらけの偽書が発端!)の関係者の方々に対して、米国への入国ビザを差し止めると言う発表を行った。この関係者とされる日本人は主に八十〜九十代の方々でビザ差止に実質的な意味はなく、この発表は民主党が中共の反日史観を全面的に受け入れたことを日本及び世界に対して表明したるものに他ならない。

 翌一九九七年二月にクリントンは「二十一世紀に備える」という大統領一般教書を発表しているが、この一般教書では中共の重要性を強調して米中友好を訴え、朝鮮半島や東南アジア諸国にまで細かく言及しているものの日本にはまったく言及していない。民主党の〝米国の二十一世紀のビジョン〟の中には、日本は含まれていなかったのだ。これについて日本の外務省は「日米両国間に懸案の問題がないため」だと能天気なコメントを行ったが、もし本気でそう考えていたのなら阿呆にも程がある。この一般教書が示すものは、ついに民主党は中共と手を組み日本を切り捨てたと言う事であり、それを裏付ける行動として翌一九九八年六月にクリントンは、中共の要請どおりに、中共を訪問して日本を素通りするという悪名高い「ジャパン・パッシング」を行ったのだ。このときクリントンは実に九日間も中共に滞在しているが、米国歴代大統領でこんなに長く外国に滞在した例は過去に一度もない。そしてこの滞在時に江沢民は、「歴史カード」をさらに効果的に用いて米世論を反日に誘導せしめるように、クリントンを懐柔したのである。

 このクリントンの訪中の前年、一九九七年十月に訪米した江沢民は最初にわざわざ真珠湾に立ち寄り、出迎えに駆けつけたクリントンと肩を並べて「我々は共に日本と戦った戦友だ」と気勢をあげていたが、翌年訪中したクリントンも江沢民主催の晩餐会で「米中両国はかつて日本と戦った同盟国だった」とスピーチしている。もしブッシュならば絶対に口にしないようなこのクリントンのスピーチには、親中嫌日の伝統を持つ民主党のホンネが露呈している。一方、二〇〇二年五月に訪米した胡錦濤もまず真珠湾に立ち寄るというパフォーマンスを行ったが、ブッシュはこれに冷淡に対応しワシントンから動こうとせずに胡錦濤を迎えている。詳しくは次章で述べるが、日本と戦争に反対していた共和党、そして日米戦当時の政権与党であった民主党、この両党の対日歴史観には大きな隔たりがあり、民主党の歴史認識は中共と相通じるものなのだ。

 一九九九年以降、民主党の牙城であるカリフォルニア州では、民主党の知事の下で講和条約を無視して日本企業へ戦時賠償を求める訴訟が二十八件も相次ぎ、カリフォルニア州地方裁判所は日本企業に賠償を命じた。これは一九九七年七月に、中共ロビーの意を受けたトム・ヘイデン民主党上院議員が提出して成立した所謂「ヘイデン法」に基くものであり、中共の在米反日プロパガンダ工作員と民主党親中派が仕組んだ日米離反工作の一貫であった。ヘイデン上院議員は一九六〇年代には、共産主義革命を呼号するSDS(民主社会学生同盟)という「アメリカの全学連」を創設したSDS初代議長であり、中共や北朝鮮へのシンパシィを宣伝している民主党最左派の一人である。さらに元々より民主党が圧倒的な勢力を誇るカリフォルニア州は反日傾向の強い州であり、日露戦争以後の排日移民法・日系人の土地保有禁止法・日系人学童排除法など、米国の排日運動は大半がカリフォルニア発であった。現在カリフォルニアには在米華僑グループが創立した「太平洋文化財団」という組織があり、さらに中共の国際的反日史観プロパガンダ組織「抗日戦争史実維護連合会」の本部もカリフォルニアであり、中共諜報機関と民主党親中派が協力して、これらの組織を米国の反日史観プロパガンダ拠点に仕上げている。

 このカリフォルニアの反日攻勢はヘイデン法にとどまらず、一九九九年十一月にはカリフォルニア州選出のファインスタイン民主党上院議員が、さらに翌年二〇〇〇年二月には同州選出のビルブレイ民主党下院議員が、それぞれ上下院に日本の戦争責任を追及する法案を提出するに至った。ファインスタインはこの法案の提出時に「日本軍が中国人捕虜に生物・化学兵器の人体実験をしていた証拠が米政府に保管されていないか調査している」という声明を出していたが、その直後に実にタイミングよく中共で七三一部隊の人体実験の証拠文書なるものが突如「発見」されて公表され、民主党系のリベラル諸紙で大きく報じられた。要するにファインスタインの声明と中共の証拠文書捏造は、絶妙の呼吸で連携していた共同謀議だったのである。

 クリントン時代のこの錯乱したカリフォルニア州の反日策動の、その背景に中共ロビーと民主党親中派が暗躍していることを熟知していた共和党は、ブッシュ政権誕生後すぐに「サンフランシスコ講和条約にて全て解決済み」と声明してカリフォルニア州を抑えにかかった。その結果、二〇〇三年一月二十一日にサンフランシスコ連邦高裁は「ヘイデン法は違憲」との判断を下し、同二月六日カリフォルニア州上級裁も同州地方判決を棄却、同十月六日に米最高裁がサンフランシスコ高裁の判決を支持して原告控訴を棄却し、本訴は判決確定するに至っている。日本離反工作を警戒するブッシュ政権であったからこそカリフォルニアの反日策動を抑えたものの、もし民主党政権であったならば「ヘイデン法」の悪禍は全米に波及していたことであろう。

 さて読者氏は映画には、純粋な娯楽作品と政治的プロパガンダを含有する作品の二種類が存在することをご存知だろうか。かつて日本でも若松孝二・大島渚・山本薩夫らが新左翼映画をつくっていたが、例えば「独裁者」で反ナチス・プロパガンダを行ったチャップリンは共産主義者でもあったことから、冷戦下の米国は一九五二年の米出国以後二十年間もチャップリンに再入国ビザを与えなかった。反ブッシュのドキュメンタリーで物議を醸しているマイケル・ムーアも熱心なマルクス主義者である。私は映画史の研究も行っているが、政治性のある大作映画の製作背景を調べるといろいろと興味深い事実が判明する。クリントン政権下の米国で制作された反日プロパガンダ映画の一つとして、日本軍を一方的に悪役として描いた『パールハーバー』がある。日本の大本営がそこらの土手に置いた水槽にオモチャの船を浮かべて米国攻撃の作戦会議を行い、その脇にはフンドシ一丁の兵が並び、あげくには機密会議の筈なのに土手で子供たちが凧揚げをしているという、日本をとことん馬鹿にした屈辱映画だ。この映画の悪質な点は、実際には軍事施設しか攻撃しなかった日本軍が病院爆破をしているという捏造シーンを加えることで、アメリカによる日本への大空襲(民間人大量虐殺)を正当化していることである。実はこの作品の製作には、クリントンの指示で米海軍や国防総省から「PR費用」の名目で多額の製作資金が提供されている。その資金提供の背景にはカリフォルニアの訴訟と同様に、これまた中共ロビーの要請と献金が有り、この映画はアメリカ国民の反日感情を煽る日米離反工作目的に製作されたものなのである。

 フランク・キャプラやジョン・フォードに端を発して、アメリカでは従来より政党が映画を政治的プロパガンダに用いる伝統がある。ハリウッドの大半はユダヤ資本であり、ハリウッド大手映画会社役員の約六十%がユダヤ人であることから、映画産業は民主党の牙城となっており、「ハリウッドの共和党員は、C・イーストウッド、C・ヘストン、、M・J・フォックス、A・シュワルツヘッガーの四人組しかいない」と揶揄するジョークが有るぐらいなのだ。従って必然的に民主党がこのプロパガンダ手法を多用する傾向にある。例えば一九九六年の大統領選挙前にクリントンが協力して製作された『アメリカン・プレジデント』はハンサムな民主党大統領を主人公とするラブストーリーで、登場する共和党大統領候補は醜男で陰険な悪役として描かれていた。また同時期には民主党左派のオリバー・ストーンが民主党支持者の俳優を集めて『ニクソン』を監督し、共和党大統領であったニクソンをケネディ・コンプレックスに悩む卑屈で嫌味な人物として描き、怒ったニクソンの遺族が告訴している。これらの作品に共通していることは民主党系のユダヤ金融資本の資金が製作費に流れているということだ。中共が反日プロパガンダ映画を量産しているのは公知のことだが、ついに同盟国たる米国の民主党政権までもが反日プロパガンダ映画製作に資金提供したという意味で、この『パールハーバー』は一つの分岐点となる。日本ではTVのインタビューでこの映画の感想を聞かれて「感動した」だのとコメントしていた馬鹿な若者たちがいたが、まさに日本人の無知と愚かさを象徴するものである。(なお共和党政権下で『ラスト・サムライ』が製作され共和党系諸紙がこの映画を絶賛していたことにも注目しておきたい。)

 現在、中共は前述の在米「抗日戦争史実維護連合会」を中心として、全米で日本悪玉史観を喧伝するセミナーやシンポジウム、パネル展、書籍発行、エセドキュメンタリー製作などを大々的に展開しており、民主党がそれを全面的に支援している。中共が「日本の侵略・戦争犯罪」を米国民に宣伝する業務を委託契約している大手PRコンサルタント企業ヒル・アンド・ノートン社は、民主党と目されるユダヤ資本企業である。また中共は前述のように闇献金を民主党要人にバラまく一方で、江沢民は訪米時にクリントンへの手みやげとしてボーイング五十機の購入を行っている。ロッキード社が共和党よりなのに対してボーイング社は民主党よりといわれており、ボーイング社は中共に媚びるために台湾の呂秀蓮副総統の工場見学を拒否したぐらいである。こうして赤字転落していたボーイング社は大喜びで民主党に多額を献金し、クリントンは一層対中マーケットに幻惑されていったのだ。この反日の中共と嫌日の民主党との蜜月は、まさに大東亜戦争前夜の日米中の関係を想起させ、すなわち冷戦終結によって民主党は原点回帰したともいえよう。ひたすら中朝の機嫌をとり続けたクリントン、そしてクリントン路線の継承を唱えるケリーの目には、むしろ北朝鮮よりも日本の方がエネミー(敵)として写っているのではないだろうか。

 とにかく日本を目の敵にして中共に媚びた民主党のクリントンに比べて、ブッシュは共和党の本流に位置する人物なので日本に対するスタンスについても正反対である。例えばクリントン政権ではアメリカのみを守るNMD(米本土ミサイル防衛)と同盟国をカバーするTMD(戦域ミサイル防衛)を区別していたのだが、二〇〇一年七月にブッシュ政権は「同盟国の安全保障はアメリカの安全保障である」と宣言してBMD(弾道ミサイル防衛)として一つの計画に統合した。英国などにはミサイル攻撃を受ける差し迫った危機はなく、つまりブッシュは日本のためにNMDとTMDを統合したとも言える。ここにもブッシュの対日観が現れている。

 アメリカの歴代政権で日本核武装を支持又は容認する姿勢を表明したのは、ニクソン政権と現ブッシュ政権のみであり、ともに共和党政権だ。ニクソンは対ソ戦略上の必要と再選へ向けた人気回復目的から米中和解を行ったが、それによって中共から日本を護る安全保障力が低下した代償として、日本核武装を認める信義を示した。ブッシュ政権については詳しくは後述するが、やはり北朝鮮情勢に鑑み同盟国の信義としての日本核武装支持である。共和党のスタンスに比べて、逆に民主党は「いかに日本の軍事力拡大を抑えこむか」を一貫して優先してきた。安保よりも経済優先の民主党にすれば、日本が軍事力を拡大して国際社会での政治力を増大させることは、日本が再び経済的にもアメリカの脅威になることにつながると考えているのだ。つまり分かりやすく例えれば、共和党は軍人であり、民主党は商人である。商人は損か得かで判断するが、軍人は敵か味方をハッキリと区別して経済的な損得勘定では動かない。

 ところで日本は偏向マスコミのせいで共和党に対して「戦争屋」のようなタカ派イメージを持つ日本人もいるが、歴史的に鑑みると第二次大戦に参戦したルーズベルトもベトナム戦争に介入したケネディも民主党であり、二十世紀に米国が参戦又は関与した戦争は、一九九一年の湾岸戦争と今回のアフガニスタン及びイラクを除く他のほとんどが民主党政権下で決定されている。どちらがタカでもハトでもなく、共和党が国家戦略的な戦争を行うのに対して、民主党はムードに流されて結果的に戦争を行ってしまうという、その差があるだけなのだ。例えばクリントンは一九九三年〜二〇〇一年一月に渡る八年の在任期間中に、紛争対処のために計七十六回米軍を出動させているが、その全てに置いて失敗している。民主党はユダヤ資本と組んでいることから経済戦争には強いが、本物の戦争については明確な信念や戦略を持たずにその場しのぎの対応を重ねることが多いのだ。

 また民主党が容共主義ゆえに国際戦略に失敗が多いことに対して、共和党はその反共主義の強さゆえに安易な妥協をしないという差もある。レーガンは米国史上初めて核軍縮を行った大統領でもあるが、それはソ連と同時に行われたものであり、この核軍縮会談でゴルバチョフがSDI計画放棄を交換条件に持ち出したところ、レーガンは毅然と席を立っている。このレーガンの強い意志を悟ったゴルバチョフは、結局交換条件を付けずに米ソ同時核軍縮に応じたのである。それに対して民主党カーター政権は、ソ連に対して「善意」と「和解」を呼びかけて米国自ら一方的な軍縮を行った。しかしその結果、「弱いアメリカ」をなめたソ連は、アフガニスタン侵攻を手始めにベトナム、アンゴラ、エチオピア、ソマリア、ニカラグアなど世界中で軍事的かつ政治的な覇権を求めて紛争を引き起こすに至っている。クリントンの甘やかしが中共の軍事大国化を招き、さらに北朝鮮を増長させて核開発を加速させたことと同じパターンである。

 共和党系シンクタンクのヘリテージ財団は、二〇〇一年一月三日にブッシュ政権の指針となる「新大統領の優先課題」という報告書を公表し、その中で「クリントン政権の対中政策の過ちは、安全保障上の米国の国益よりも中国との経済関係に重点を置きすぎた点である。その結果、北東アジアの同盟国(日本)を犠牲にするような印象を与え、米国のアジアにおける国益を混乱させた」と民主党の媚中的外交方針を厳しく批判している。共和党が日本に要求するのは、例えば「イランが核開発を継続するならば、日本はイランとの油田契約を解除するべきだ」といった安全保障や世界秩序に基くものだけであり、それはつまり同盟国としての信義を日本にも求めるということである。経済的利益目的の対日圧力とは根本的に意味が違うのだ。日本を含めてイラク戦争を支持した同盟諸国を民主党は「強制され買収された連合」と呼んだが、これは図らずも民主党の考える同盟関係とは強制(圧力)か買収であるという本音を露呈していよう。一方、共和党政権はこれら同盟国に対して何度も「敬意と感謝」を表明しており、この差こそが軍人と商人の気質差でもある。そして軍人がまず第一に求めるもの、それは「強い友軍」の存在に他ならない。

 アーミテージ国務副長官が中心となって作成した所謂『アーミテージ・レポート』では、「全アジアにおけるアメリカの国益は、日本の繁栄を通じてのみ増大する」「日米の防衛産業は戦略的提携関係を結び、アメリカは日本へ優先的に防衛関連技術を提供する」「米日関係は、バーダン・シェアリング(負担の共有)からパワー・シェアリング(力の共有)へと全身するべき」と説き、「日本は小切手外交をやめ、集団安全保障に明確に義務を負い、アメリカの対等な立場の同盟国として自立するべき」と結論づけている。『アーミテージ・レポート』の執筆者の一人が「もし日本がこの提案を受け入れないのなら、日本は一体何を欲するというのか」とも述べているぐらい、日本を信頼し高く評価した対日政策であり、これがそのままブッシュ政権の対日戦略となっているのだ。すなわち共和党は中共よりも日本をパートナーとすることを望み、中共に対しては強い警戒心を怠らないという、まさに民主党とは対極のアジア戦略を党是としている。

 さて米政治思想の研究家として有名な副島隆彦氏は、「(外国に対する共和党の考え方は)自分のことや自分でやれ、自分の国は自分で守れ、自分の頭で考えろ、自分の力で生きろ(と言うものだ。)彼らは外国を支配しようという気がない人々である。そもそも共和党はそういう政党なのである。それに対して民主党系の政財界人ほど、実は世界各国に資産を持っている。この勢力の人々が国際的なビジネス(多国籍企業)を行い、自分たちが世界中に分散して保有している金融資産や石油その他の鉱物資源の利益を守るために米軍を外国に駐留させ、いざという時に使おうとする。この立場をグローバリズムと言う。このグローバリズムに対して共和党保守派は強く反対している。共和党はキレイごとだらけの『人権やヒューマニズム』を振り回す人々ではない。民主党支持者がグローバリストであるのに対して、共和党支持者は反グローバリストである。民主党と共和党系の人たちとは根本から違うのだ」と述べておられる。アメリカという国が丸ごとグローバリズムを推進して世界を管理下に置こうとしているのではない。グローバリズムと反グローバリズム(アイソレーショニズム)が思想的内戦を戦っているのがアメリカの実状なのだ。

 しかし日本では反グローバリズムを唱える人々の多くは、保守・左翼を問わず反ブッシュを掲げイラク戦争に反対している。つまりグローバリズムの「正体」が見えていないのだ。反対を唱えるべき相手が誰か分からないままに反対を唱えている。信じ難い無知である。私は伝統的保守主義者であり反グローバリズムの立場に立つ。日本の主権自立を目指し、アメリカによる「管理」も拒否する。従って共和党政権を支持し、民主党を批判する。「アメリカの世界支配に反対」という立場ならば、反グローバリズムの共和党と手を組んで民主党のグローバリズム戦略を攻撃するべきなのに、多くの日本人は逆に味方を攻撃することで敵(グローバリスト)を応援している。左翼がアメリカを一括りにして反米を唱えるのは、アメリカが資本主義大国でありソ連を解体せしめた仇敵であることから理解できなくもない。しかし一番奇妙にして不可解なのは、アメリカの「管理下」から日本の自立を主張する保守派が反ブッシュを唱えるという矛盾だ。櫻井よしこ氏いわく「日本人として注目するのは、どちらの政党が日本にとってより良い存在かという点につきる。答えは比較的見えやすい。共和党である。なんといっても同党は、日本に一番足りないもの、国家としての自立と責任を日本に期待しているからである。日本の自立を求めず、いつまでも支配下に置きたい民主党より遥かによい」と言う、この明白な現実をまったく理解していないのである。米メリーランド大学が世界の主要国で行った「米大統領選でどちらの候補に勝ってほしいか」という対外世論調査では、日本人の四十三%がケリー支持、二十二%がブッシュ支持であった。半数近くの日本人が結果的に自国を弱いままアメリカの「管理下」に置き留めようとする選択を行っているのだ。これはもう知的怠堕の極みと断ずるより他はない。

 民主党が中共と手を組んだ一因は、十三億人の中共マーケットが国際ユダヤ資本を中心とする民主党系グローバリストにとって「宝の山」に写っているからである。他方中共にとってもアジア制覇の戦略上、アメリカに日本を切り捨てさせる必要がある。民主党と中共の利害は一致したのだ。なおアーミテージ国務副長官との会談を理由なく拒否し「ゴアが当選していればよかった」とダウナー豪外相に語った田中真紀子、米民主党要人と密接なパイプを持ちアメリカで「日本は米中等距離外交を採る」と吹いてまわり共和党を呆れさせた加藤紘一、その他いわゆる日本の中共シンパ政治家は例外なく共和党よりも民主党に近いというのが現実だ。民主党の反日史観と対中迎合に対して日本側の自虐史観と対中従属、そして軍事的・政治的に「弱い日本」の永続化といった政治理念が、民主党と日本の親中左派は一致しており、それは中共の基本戦略でもある。民主党勢力による「管理下」に日本を置き、中共の望む「日本封じ込め」が継続され、あげくには米国債棒引きを狙った経済クラッシュ(IMF管理)を仕掛けられていることを知ってか知らずか、日本の親中左派政治家にその歪んだ信条をもたらせているメンタリティは自虐史観である。つまり米民主党─中共及び台湾外省人─日本の親中左派、これらは同軸であるということだ。

 一方それに対して共和党─台湾内省人─日本の保守派という形で連携するべきが本来の正しい対抗図式である。石原慎太郎氏は、「NOと言える日本」の影響で反米主義者のように誤解されている面もあるが、日本政界では有数の共和党人脈を持っておられる方である。日本の親中左派政治家が民主党と気脈を通じているのと同様に、保守は保守同士で相通じる感性があり、たとえ国は違っても思考的に一致する点が多いのだ。従って自民党が保守を称するのであれば、本来自民党は共和党と友党であるべきなのである。一九八三年に共和党と英保守党が中心となって約七十ヶ国の保守党を集めて結成したIDU(国際民主主義連合)という国際的政党ネットワークがあり、かつて自民党はこのIDUに加盟していたものの現在は脱退している。四年毎に開催されるIDU大会は、共和党のみならず世界中の保守政党と自民党がパイプを作れる場であるのに、自民党は代表団も派遣せず、しかも日本の中共属国化が進むにつれて反中姿勢の強いIDUを脱退するまでに至ってしまったのだ。自民党はもはや保守政党ではないのか。保守政党だというのであればIDU復帰を至急行うべきである。

 なお詳しくは次章で述べるが、共和党は日本開戦当時の日本の立場に一定の理解を示している。共和党系シンクタンクに名を連ねるD・フィンケルシュタイン博士は元DIA(国防総省情報局)東アジア担当課長や米海軍分析研究所などを歴任したアジア通だが、その演説で「現在中共の過激なナショナリズムと軍拡は、世界の脅威である。かつての日本は、この厄介な中国問題を解決しようと武力まで行使して結局失敗した。(日本をそのような道へと追い詰めた)ルーズベルト政権をふくめて全ての当事国が失敗を犯したのだ。再び同じ過ちを犯してはならない」と述べている。これが共和党の代表的な認識であるといえよう。

 一方、対日貿易圧力の民主党イデオローグであるC・プレストウィッツや日本の社共両党を高く評価しているリベラル最左派のジョン・ダワーなど、現在のブッシュ政権の国際戦略を米国内で批判している勢力は、「日本は侵略戦争を十分に謝罪し従軍慰安婦などの被害者に賠償せよ」「日本が戦争責任をあいまいにするのは、米国が昭和天皇を罰しなかったからだ」などと主張している。アメリカの国内においても、反ブッシュを呼号する勢力は例外なく同時に反日主義(反日史観)でもあり、日本人が反ブッシュを唱えることは米国内の反日史観勢力に与することになる。従って日本で自虐史観を批判しつつ反ブッシュを唱える人々は、結果的に自虐史観を間接支援しているのと同義なのだ。

 高名な文化人類学者シーラ・ジョンソンは、一九九六年の自著『アメリカ人の日本観』の中で「アメリカには二つの相反する日本観がある」として、「ペリー提督の部下は日本人を世界で最も礼儀正しい国民だと考えたが、ペリー自身は、日本人は嘘つきで逃げ口上ばかり言う偽善的な国民だと公言した」と述べ、この二つの対日観は「以後百年間変わっていない」と断じている。ペリーの対日観を継ぎ日本を嫌い「弱い日本」を望む勢力を代表するのが民主党、そしてペリーの部下の対日観を継ぎに日本に理解を示し「強い日本」を望む勢力の代表が共和党なのだ。この二つの対日観が百年間以上も両党によって引き継がれてきたことは、次章で述べる両党の対日関係史によって裏付けられる。グローバリズムの是非同様に、この二大対日観、異なる対日路線がアメリカに共存することを知りもせずに反米も親米も有ったものではないことに気付かぬ日本人が多すぎるのだ。

 二〇〇一年三月に米ギャラップ社が行った米国民世論調査で「日本は防衛力を増強するべき」と回答したのは五十二%、残りの四十八%は「現状維持」又は「現状よりも削減するべき」であった。これは異なる対日観の二つの路線、すなわち「強い日本」を望む共和党支持層と「弱い日本」を望む民主党支持層が、米国世論をビッタリ二分していることを示すものである。二〇〇一年ブッシュ政権発足時の米上院議会では、百議席の内、共和党と民主党はそれぞれ五十議席ずつ有しており、その支持層の数がほぼ均衡していることはブッシュとゴアが争った大統領選挙の結果を見ても明らかであろう。イラク占領政策の失態でブッシュの支持率が低下したといっても、それでもおよそ半数が支持しているのは、「何があっても民主党は支持したくない」という確たる信念の共和党支持者が米国の半分を占めているからなのだ。ミシガン大学世論調査センターが発表した調査報告書には、「高等教育を受けた者はそれだけ共和党支持の比率が高くなり、教育程度が低ければそれだけ民主党支持の比率が高くなる。あるいは企業管理職などの社会的地位が高くなるほど共和党を支持しがちで、社会的地位が低くなるほど民主党の支持比率が増える」と述べられており、「ゴールが平等なのか、スタートラインの条件が平等なのか。富の配分なのか、自由競争原理なのか。どちらがより公正だと考えるかが両党その支持者を互いに相容れない深い立場の違いに対峙させている」と定義している。

 米ブルッキングズ研究所のトーマス・マン上席研究員は、二〇〇四年四月に産経新聞のインタビューに答えて「(共和党と民主党には)内政・外交両面で政治上の大きな違いがある。二大政党は多くの点で見解が異なる。ブッシュ氏とケリー氏の主張は当然それを反映したものになり、減税、歳出、(小略)国防、国際機関(国連)の有効性、公共の哲学など、あらゆることで異なっている」と述べた上で、「米国は共和党と民主党の両党支持にほぼ等しく分裂している」とも指摘している。つまり政党も国民世論も価値観も対日外交方針も、アメリカという国は二つの完全に異なった路線がほぼ同比率で共存しており、親日的で規律志向の保守層(共和党支持)と嫌日で享楽志向のリベラル層(民主党支持)は、現在アメリカ国民を二分して拮抗しているということだ。すなわち「二つのアメリカ」が存在しているのだ。

 アメリカという国を一括りに視てしまうのではなく、この「アメリカは二つ存在している」という視点こそ、日本人がアメリカを考えアメリカに接する上で決して忘れてはならない、大切なキーワードである。

日本人が知らない「二つのアメリカ」の世界戦略 深田匠著

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